募集開始から早々に予選参加確定プランの個人スポンサーが売り切れるなど、始まる前からにわかに盛り上がりを見せる ISUCON12。「いい感じにスピードアップコンテスト」というゆるい名前とは裏腹な熱い戦いは、CTOという技術組織を統括する立場からはどう見つめられているのか。
パフォーマンスチューニングの大切さについて、ゲストにデジタル庁 CTO 藤本真樹さんを招き、ISUCONを主催するLINEのCTO 池邉智洋さんのお二人に、ISUCON をテーマにいろいろなお話を伺ってみました。

パフォーマンスチューニングの大切さについて、ゲストにデジタル庁 CTO 藤本真樹さんを招き、ISUCONを主催するLINEのCTO 池邉智洋さんのお二人に、ISUCON をテーマにいろいろなお話を伺ってみました。

―― ISUCON9優勝後、10、11、12と運営でお手伝いさせていただいてます、rosylillyこと草野といいます。お二人とも、今日はよろしくお願いします。自己紹介をお願いします。
藤本 藤本です。よろしくお願いします。グリー株式会社と、デジタル庁でCTOを僭越ながらやらせていただいております。
池邉 池邉と申します。この4月から、LINE株式会社のCTOに就任しました。よろしくお願いします。
―― お二人はISUCONってご存じですか?
藤本 知ってます!
池邉 はい、第1回大会の責任者であり「ISUCON」という名前の名付け親でもありますので、最初から知っております。
―― ISUCON のようなパフォーマンスチューニング技能は、お二方の中ではどのような評価でしょうか?
池邉 問題を見てると教科書どおりのチューニングをやったら解けるように出来ているので、普段の業務とかは異なるアプローチで技術的な考え方で課題解決に取り組む機会としては役立つかなと思います。あと、最大三人という少人数で、制限時間も含めて追い詰められながら開発する緊張感というのは、あれはあれでメンタル的も刺激になっていいんじゃないかな、と思いますね。
藤本 言い方が難しいですが、純粋な競技プログラミングとかよりはちょっとプラグマティックな感じはするかなと思います。
システムに問題があった時、その原因を突き止めて対策することは、基本僕らエンジニアはよくやるし、そういう仕事がとても多いじゃないですか。ISUCON は瞬発力に偏りがちな所はありますがそれはそれですごく大事だし、欠かせない技能だと思います。そういう意味で、問題解決の訓練としていいイベントだと思います。

池邉 そうですね。仮説を立てて、計測してやっていくというのは普通に面白いと思います。また、大人になるとチームで一日膝突き合わせてガッチリ合宿のようにやる機会が多くないので、それ自体が楽しくて毎年出たくなる人もいるんだろうなと感じてます。その修羅場のような時間の中で、一種の興奮状態のようになり、部活のように楽しんでもらえているんじゃないかな。
―― 会社が大きくなるにつれて、インフラにかけられるお金が増えると思います。そしてお金が増えると取れる手段が増える。
ISUCON はお金で計算リソースを増やすことはルールで禁止なんですが、現実には当然買い足すことができて、そうなると選択肢は爆発的に増えてしまう。お二人も当然そこでどういう選択をするか悩んだことがあると思うんですが、お金で解決するか、技術で解決するかなど、どういった考えで問題解決に臨まれてきたんでしょうか?
池邉 実際の現場だと、ISUCON のようなチューニングを頑張るよりお金の力でスペックの高いサーバーを買う、サーバーの台数を増やすみたいなことの方が多分ソリューション自体としては問題解決するという観点では早いです。
ただ、大前提としてそういったリソースの物量で対処できるような設計にしておかないとその手段も取れないので「正しくサーバーを増設すれば何とかなる」という状況まで持っていくのが腕の見せ所じゃないですかね。設計がまずいと増設すればするほど状況が悪化することになると思うので。
チューニングをする前の段階として、正しい設計で作ることが大事なので、その練習として ISUCON はいいんじゃないかなと思いますね。
藤本 でもお金の力で乗り切った後に「10%速くなったらサーバー代が10%減って、月1億円掛かってたら……すごい!1,000万円浮く!」ってなりません?そういうのはありますよね。
池邉 そうですね。いったんお金の力を使って対症療法的に解決しておいて、出来た時間で技術的に最適化するみたいな進め方のほうが素早く物事に対処できますね。
藤本 そう、お金で対処したその後が大事なんですよね。
―― ISUCON は学生の参加者も年々増えていて、その学生が社会人に引けを取らないくらい強いのですが、お二方から見て最近の若い方や学生の印象はどうですか?
池邉 若い人はすごく勉強してるなと感じます。あと、ISUCONやパフォーマンスチューニングのベストプラクティス的なものが整理されていたりするので、勉強しやすくなってるのかなとも思います。最近のISUCONのリポジトリとかを見ていると、環境構築がすごく簡単になっていますよね。昔は環境構築自体が一苦労だったので、コンテナ技術などを使って整備され練習しやすくなっているというのもありそうです。
GitHub にはお手本や参考設計がたくさん出回っています。それらをキャッチアップした上で、コンピューターサイエンスの基本を勉強するなど、勉強自体に時間をかけることもできるので、最近の学生は強いのだろうなと思います。
藤本 「若者」と一括りにするのは中々難しいのですが、上手に巨人の肩に乗って欲しいと思っています。自分で一から何か作っていくのはもちろん大事です。だけど、既にある物をどう上手に使うか、あるいは今までのプラクティスをどう上手く応用していくかで、出せるパフォーマンスのレバレッジは大きくなっていくと思うんですよね。掛け率というか。僕はそんなに得意じゃないんですけど、若者なみなさまはそういうのが上手だなと感じています
さらに ISUCON にチャレンジするとなれば、便利なものの使い方を知っているだけではなく、中身を理解しないといけない。それが出来ているのは、すごいなと思っています。ゲーム開発だと、例えば Unity はアセットを組み合わせるだけでも一人でそれっぽいものが出来たりしますよね。そういう世の中で、僕らは仕事で20〜50人のチームを作り、どういう戦い方をするかを考えています。チームで戦うことはお互い良い刺激になると思うので、ISUCONに参加するチームの皆さんも互いに頑張りましょうと思っています。

―― 「パフォーマンス」にも様々な種類がありますが、お二人の中で特に大事にしている「パフォーマンス」はありますか?
藤本 様々なパフォーマンスを出していく時に、もう一段メタな所で大事なのは、やってみて計測して、改善して、改善した結果がまたちゃんと見えるというサイクルがあることだと思っています。ソフトウェアエンジニアにとっては大事なあり方だし側面ではないでしょうか。
それがソフトウェアの本質であり、ハードウェアとは違うアプローチが出来ると思っています。そういう意味では特定のパフォーマンスを大事にするよりも、ちゃんと計測して前に進んでいるのが見えることが一番大事だと思います。特に最近はそれを意識するようにしていますね。
なのでどの軸と言うより、どれだけちゃんと分かって前に進んで、一日前より一週間前より良くなっているかというのが見えるって言うのが結構大事なんじゃないかなと思います。
池邉 計測可能な状態にして日々見ていくのはすごく大事なことです。大事なんですけど、最終的にはユーザーの肌感みたいなのもあるじゃないですか。ユーザーがどう心地よく使えるか、みたいな。そこは計測しづらい所ですよね。でも最終的にユーザー体験を向上させるために諸々の活動はあるのかなと思っています。
どうしても処理に時間がかかったりすることもあるので、その時に時間がかかっていないように見せるテクニックも必要だと思います。待ってもらっている間、ミニゲームをプレイしてもらっておくとか、素敵なムービーを流しておくとか、テクニックが色々ありますよね。
そして最終的にはユーザーの心地よさなどの提供価値の向上に繋がるというのが良いパフォーマンスだと思っています。事業としてのパフォーマンスへ最終的に繋がらないと、あらゆるチューニングは自己満足的な話になってしまいます。そこに繋がるかを意識しておく必要があるんじゃないかなと思いますね。
藤本 LINE のアプリを触って、最初にこれ賢いなと思ったのは「送信が完了してないけど画面に出す」という表現の仕方ですね。
メッセージを送信した時にすぐに画面に反映されるので、結構体験が変わりましたよね。あれは凄く大事だったんだろうなと今にして思います。
池邉 そうですね。LINE は"ユーザーファースト"の視点のもとプロダクト作りをしているので、まずはじめにユーザーがどう思うかを気にしています。
―― エンジニアらしくないというと失礼ですが、送信が完了してないのに画面に出すのは驚きでした。
藤本 エンジニアが素直に考えてたら、送信して ack が来たら画面に出すように作ろう、となるところを、ユーザーが気持ちいいものとして作っている。あれ賢いですよね。
―― ISUCONに参加する人たちに向けて、応援コメントなどを一言いただけますか。
藤本 応援するなんておこがましいですが、僕も時間が出来たら練習して出たいなとは思っています。こういうのは楽しまないと損というか、楽しんでなんぼじゃないですか。勝ち負けも勿論大事ですけど、楽しく頑張っていただけるといいなと思います。きっといつの日か僕も出ると思うので、その時はお手柔らかにお願いします。
池邉 僕はずっと運営の立場として ISUCON の裏側を見ていたので、回を重ねるごとにレギュレーションなどがしっかりとしてきて、すごく参加しがいのある大会になってきたなと思っています。
最近は有難いことに様々な企業で社内 ISUCON が開催されていて、キャリアの上でもある程度 ISUCON 出場が武器になるようになってきました。採用の面接でも「ISUCON 本選に行きました」とか「ISUCON で何位でした」とか書いてきてくれるので、そういうのを見ると私も「おっ」と目が開きます。そういった意味でも非常に実務的でキャリア的にも意味のあるイベントになったのではないかなと。とはいえ、キャリアのことだけを考えていてもよくないので、チームで楽しく仲良く頑張っていただけたらなと思います。
藤本 矜持とはまた違うと思いますが、コード書いて楽しいとかワクワクするとか、そういう気持ちは無くしたくないなと思っています。その気持ちがそもそもスタートだし、やってる理由なので大事にしたいですよね。コード書いてソフトウェアを作っても楽しくなくなったら、自分にとって意味がないと思います。だからこそ、そこはすごく大事だし譲れないというか、絶対無くしたくないなと思っていることなんですよね。
池邉 僕も未だに「みんなは何やってるんだろう」と気になってコード書いたりするので、それは書き続けたいですね。会社や組織に関しては「開発者同士、仲良くやってほしい」とずっと思っています。
良いエンジニアってコード書く能力が高いというのもありますが、結局良い人が多いですよね。ISUCON でもチーム戦というのは非常に大事だと思っていて、チームでちゃんと機能できたところが勝てるような気はしています。今のソフトウェア開発は非常に大規模化していて、相対的に一人で出来ることが少なくなってきているので、そういった中でいかにチームで上手くやっていくかみたいなことは個人的には意識しています。
三人 ありがとうございました。

終始和やかな空気感で終えたインタビュー。振り返ってみれば二人の CTO たちはどちらも楽しむのが大切、とアドバイスしてくれていた。お二人自身も ISUCON の過去の問題にチャレンジしてみたこともあるそうで、その時のことを楽しげに語ってくれたシーンも。まさに、楽しむことが大事なのだと体現しているようだ。
ISUCON に臨むには自分はまだ実力不足なのでは……と尻込みしている方にも、楽しいお祭に参加するくらいの気軽さで参加してみていただきたいと改めて思えるインタビューでした。
ISUCON12 の参加登録は2022年6月1日(水)10時から、6月6日(月)20時から、6月11日(土)10時から受付開始。公式サイトや公式Twitterで最新情報を確認してください。一緒に ISUCON12 を楽しみましょう。
取材・文/草野 翔
藤本真樹(@masaki_fujimoto)
デジタル庁 CTO
上智大学文学部卒。2001年、株式会社アストラザスタジオ入社。03年、有限会社テューンビズ入社。PHP等のオープンソースプロジェクトに参画し、オープンソースソフトウエアシステムのコンサルティングなどを担当。05年、グリー株式会社取締役に就任。21年9月、デジタル庁のCTOに就任
池邉智洋(@ikebe)
LINE株式会社 上級執行役員CTO
2001年、京都大学工学部在学中にWeb制作会社で働き始め、同年10月にオン・ザ・エッジ(後のライブドア)に入社。同社の主力事業の一つだったポータルサイト事業の立ち上げから携わる。2007年に新事業会社「ライブドア」として再出発した際には執行役員CTOに就任。その後の2012年、経営統合によりNHN Japanへ移籍。2013年のLINE株式会社(商号変更)を経て、2014年4月に上級執行役員 LINEファミリーサービス開発統括に就任。2022年4月より現職。
聞き手・草野 翔(@rosylilly)
宇宙海賊合同会社代表、株式会社ハンマーキットCTO、株式会社 Tech Consiglie CTO、プロモータル株式会社相談役、IPTech特許業務法人技術顧問。ISUCON9優勝、ISUCON4とISUCON10出題。ISUCONベンチマーカーが大好き。
藤本 藤本です。よろしくお願いします。グリー株式会社と、デジタル庁でCTOを僭越ながらやらせていただいております。
池邉 池邉と申します。この4月から、LINE株式会社のCTOに就任しました。よろしくお願いします。
ISUCON について
―― お二人はISUCONってご存じですか?
藤本 知ってます!
池邉 はい、第1回大会の責任者であり「ISUCON」という名前の名付け親でもありますので、最初から知っております。
―― ISUCON のようなパフォーマンスチューニング技能は、お二方の中ではどのような評価でしょうか?
池邉 問題を見てると教科書どおりのチューニングをやったら解けるように出来ているので、普段の業務とかは異なるアプローチで技術的な考え方で課題解決に取り組む機会としては役立つかなと思います。あと、最大三人という少人数で、制限時間も含めて追い詰められながら開発する緊張感というのは、あれはあれでメンタル的も刺激になっていいんじゃないかな、と思いますね。
藤本 言い方が難しいですが、純粋な競技プログラミングとかよりはちょっとプラグマティックな感じはするかなと思います。
システムに問題があった時、その原因を突き止めて対策することは、基本僕らエンジニアはよくやるし、そういう仕事がとても多いじゃないですか。ISUCON は瞬発力に偏りがちな所はありますがそれはそれですごく大事だし、欠かせない技能だと思います。そういう意味で、問題解決の訓練としていいイベントだと思います。
パフォーマンスチューニングは楽しい?

池邉 そうですね。仮説を立てて、計測してやっていくというのは普通に面白いと思います。また、大人になるとチームで一日膝突き合わせてガッチリ合宿のようにやる機会が多くないので、それ自体が楽しくて毎年出たくなる人もいるんだろうなと感じてます。その修羅場のような時間の中で、一種の興奮状態のようになり、部活のように楽しんでもらえているんじゃないかな。
ISUCON では出来ない『お金の力』で高速化する
―― 会社が大きくなるにつれて、インフラにかけられるお金が増えると思います。そしてお金が増えると取れる手段が増える。
ISUCON はお金で計算リソースを増やすことはルールで禁止なんですが、現実には当然買い足すことができて、そうなると選択肢は爆発的に増えてしまう。お二人も当然そこでどういう選択をするか悩んだことがあると思うんですが、お金で解決するか、技術で解決するかなど、どういった考えで問題解決に臨まれてきたんでしょうか?
池邉 実際の現場だと、ISUCON のようなチューニングを頑張るよりお金の力でスペックの高いサーバーを買う、サーバーの台数を増やすみたいなことの方が多分ソリューション自体としては問題解決するという観点では早いです。
ただ、大前提としてそういったリソースの物量で対処できるような設計にしておかないとその手段も取れないので「正しくサーバーを増設すれば何とかなる」という状況まで持っていくのが腕の見せ所じゃないですかね。設計がまずいと増設すればするほど状況が悪化することになると思うので。
チューニングをする前の段階として、正しい設計で作ることが大事なので、その練習として ISUCON はいいんじゃないかなと思いますね。
藤本 でもお金の力で乗り切った後に「10%速くなったらサーバー代が10%減って、月1億円掛かってたら……すごい!1,000万円浮く!」ってなりません?そういうのはありますよね。
池邉 そうですね。いったんお金の力を使って対症療法的に解決しておいて、出来た時間で技術的に最適化するみたいな進め方のほうが素早く物事に対処できますね。
藤本 そう、お金で対処したその後が大事なんですよね。
CTO から見る学生や若手参加者たち
―― ISUCON は学生の参加者も年々増えていて、その学生が社会人に引けを取らないくらい強いのですが、お二方から見て最近の若い方や学生の印象はどうですか?
池邉 若い人はすごく勉強してるなと感じます。あと、ISUCONやパフォーマンスチューニングのベストプラクティス的なものが整理されていたりするので、勉強しやすくなってるのかなとも思います。最近のISUCONのリポジトリとかを見ていると、環境構築がすごく簡単になっていますよね。昔は環境構築自体が一苦労だったので、コンテナ技術などを使って整備され練習しやすくなっているというのもありそうです。
GitHub にはお手本や参考設計がたくさん出回っています。それらをキャッチアップした上で、コンピューターサイエンスの基本を勉強するなど、勉強自体に時間をかけることもできるので、最近の学生は強いのだろうなと思います。
藤本 「若者」と一括りにするのは中々難しいのですが、上手に巨人の肩に乗って欲しいと思っています。自分で一から何か作っていくのはもちろん大事です。だけど、既にある物をどう上手に使うか、あるいは今までのプラクティスをどう上手く応用していくかで、出せるパフォーマンスのレバレッジは大きくなっていくと思うんですよね。掛け率というか。僕はそんなに得意じゃないんですけど、若者なみなさまはそういうのが上手だなと感じています
さらに ISUCON にチャレンジするとなれば、便利なものの使い方を知っているだけではなく、中身を理解しないといけない。それが出来ているのは、すごいなと思っています。ゲーム開発だと、例えば Unity はアセットを組み合わせるだけでも一人でそれっぽいものが出来たりしますよね。そういう世の中で、僕らは仕事で20〜50人のチームを作り、どういう戦い方をするかを考えています。チームで戦うことはお互い良い刺激になると思うので、ISUCONに参加するチームの皆さんも互いに頑張りましょうと思っています。
2人の考えるパフォーマンスのツボ

―― 「パフォーマンス」にも様々な種類がありますが、お二人の中で特に大事にしている「パフォーマンス」はありますか?
藤本 様々なパフォーマンスを出していく時に、もう一段メタな所で大事なのは、やってみて計測して、改善して、改善した結果がまたちゃんと見えるというサイクルがあることだと思っています。ソフトウェアエンジニアにとっては大事なあり方だし側面ではないでしょうか。
それがソフトウェアの本質であり、ハードウェアとは違うアプローチが出来ると思っています。そういう意味では特定のパフォーマンスを大事にするよりも、ちゃんと計測して前に進んでいるのが見えることが一番大事だと思います。特に最近はそれを意識するようにしていますね。
なのでどの軸と言うより、どれだけちゃんと分かって前に進んで、一日前より一週間前より良くなっているかというのが見えるって言うのが結構大事なんじゃないかなと思います。
池邉 計測可能な状態にして日々見ていくのはすごく大事なことです。大事なんですけど、最終的にはユーザーの肌感みたいなのもあるじゃないですか。ユーザーがどう心地よく使えるか、みたいな。そこは計測しづらい所ですよね。でも最終的にユーザー体験を向上させるために諸々の活動はあるのかなと思っています。
どうしても処理に時間がかかったりすることもあるので、その時に時間がかかっていないように見せるテクニックも必要だと思います。待ってもらっている間、ミニゲームをプレイしてもらっておくとか、素敵なムービーを流しておくとか、テクニックが色々ありますよね。
そして最終的にはユーザーの心地よさなどの提供価値の向上に繋がるというのが良いパフォーマンスだと思っています。事業としてのパフォーマンスへ最終的に繋がらないと、あらゆるチューニングは自己満足的な話になってしまいます。そこに繋がるかを意識しておく必要があるんじゃないかなと思いますね。
藤本 LINE のアプリを触って、最初にこれ賢いなと思ったのは「送信が完了してないけど画面に出す」という表現の仕方ですね。
メッセージを送信した時にすぐに画面に反映されるので、結構体験が変わりましたよね。あれは凄く大事だったんだろうなと今にして思います。
池邉 そうですね。LINE は"ユーザーファースト"の視点のもとプロダクト作りをしているので、まずはじめにユーザーがどう思うかを気にしています。
―― エンジニアらしくないというと失礼ですが、送信が完了してないのに画面に出すのは驚きでした。
藤本 エンジニアが素直に考えてたら、送信して ack が来たら画面に出すように作ろう、となるところを、ユーザーが気持ちいいものとして作っている。あれ賢いですよね。
ISUCON 参加者へ向けてのメッセージ
―― ISUCONに参加する人たちに向けて、応援コメントなどを一言いただけますか。
藤本 応援するなんておこがましいですが、僕も時間が出来たら練習して出たいなとは思っています。こういうのは楽しまないと損というか、楽しんでなんぼじゃないですか。勝ち負けも勿論大事ですけど、楽しく頑張っていただけるといいなと思います。きっといつの日か僕も出ると思うので、その時はお手柔らかにお願いします。
池邉 僕はずっと運営の立場として ISUCON の裏側を見ていたので、回を重ねるごとにレギュレーションなどがしっかりとしてきて、すごく参加しがいのある大会になってきたなと思っています。
最近は有難いことに様々な企業で社内 ISUCON が開催されていて、キャリアの上でもある程度 ISUCON 出場が武器になるようになってきました。採用の面接でも「ISUCON 本選に行きました」とか「ISUCON で何位でした」とか書いてきてくれるので、そういうのを見ると私も「おっ」と目が開きます。そういった意味でも非常に実務的でキャリア的にも意味のあるイベントになったのではないかなと。とはいえ、キャリアのことだけを考えていてもよくないので、チームで楽しく仲良く頑張っていただけたらなと思います。
最後に一言
―― もう一点、最後にお二人のエンジニアとしてこれは大事なポイントや矜持だなというものを教えていただければ。藤本 矜持とはまた違うと思いますが、コード書いて楽しいとかワクワクするとか、そういう気持ちは無くしたくないなと思っています。その気持ちがそもそもスタートだし、やってる理由なので大事にしたいですよね。コード書いてソフトウェアを作っても楽しくなくなったら、自分にとって意味がないと思います。だからこそ、そこはすごく大事だし譲れないというか、絶対無くしたくないなと思っていることなんですよね。
池邉 僕も未だに「みんなは何やってるんだろう」と気になってコード書いたりするので、それは書き続けたいですね。会社や組織に関しては「開発者同士、仲良くやってほしい」とずっと思っています。
良いエンジニアってコード書く能力が高いというのもありますが、結局良い人が多いですよね。ISUCON でもチーム戦というのは非常に大事だと思っていて、チームでちゃんと機能できたところが勝てるような気はしています。今のソフトウェア開発は非常に大規模化していて、相対的に一人で出来ることが少なくなってきているので、そういった中でいかにチームで上手くやっていくかみたいなことは個人的には意識しています。
三人 ありがとうございました。

終始和やかな空気感で終えたインタビュー。振り返ってみれば二人の CTO たちはどちらも楽しむのが大切、とアドバイスしてくれていた。お二人自身も ISUCON の過去の問題にチャレンジしてみたこともあるそうで、その時のことを楽しげに語ってくれたシーンも。まさに、楽しむことが大事なのだと体現しているようだ。
ISUCON に臨むには自分はまだ実力不足なのでは……と尻込みしている方にも、楽しいお祭に参加するくらいの気軽さで参加してみていただきたいと改めて思えるインタビューでした。
ISUCON12 の参加登録は2022年6月1日(水)10時から、6月6日(月)20時から、6月11日(土)10時から受付開始。公式サイトや公式Twitterで最新情報を確認してください。一緒に ISUCON12 を楽しみましょう。
取材・文/草野 翔
藤本真樹(@masaki_fujimoto)
デジタル庁 CTO
上智大学文学部卒。2001年、株式会社アストラザスタジオ入社。03年、有限会社テューンビズ入社。PHP等のオープンソースプロジェクトに参画し、オープンソースソフトウエアシステムのコンサルティングなどを担当。05年、グリー株式会社取締役に就任。21年9月、デジタル庁のCTOに就任
池邉智洋(@ikebe)
LINE株式会社 上級執行役員CTO
2001年、京都大学工学部在学中にWeb制作会社で働き始め、同年10月にオン・ザ・エッジ(後のライブドア)に入社。同社の主力事業の一つだったポータルサイト事業の立ち上げから携わる。2007年に新事業会社「ライブドア」として再出発した際には執行役員CTOに就任。その後の2012年、経営統合によりNHN Japanへ移籍。2013年のLINE株式会社(商号変更)を経て、2014年4月に上級執行役員 LINEファミリーサービス開発統括に就任。2022年4月より現職。
聞き手・草野 翔(@rosylilly)
宇宙海賊合同会社代表、株式会社ハンマーキットCTO、株式会社 Tech Consiglie CTO、プロモータル株式会社相談役、IPTech特許業務法人技術顧問。ISUCON9優勝、ISUCON4とISUCON10出題。ISUCONベンチマーカーが大好き。